こんにちは。公認会計士試験について調べていくと、試験科目の一部免除という心ざわつかせるワードを見聞きされたことがあるかもしれません。
今回は、
そんな風に考えてこの記事にたどり着いた皆さんに、最短での公認会計士試験合格へのヒントをお伝えしたいと思います!
ちなみに筆者は、科目免除は利用することなく、働きながら公認会計士試験に合格しました。
なので、大学生などの受験専念層よりもかなり効率良く勉強した人間だと自負しております。
それでは早速行ってみましょう!
科目免除狙いは無駄【結論】
早速ですが結論です。
公認会計士試験の科目免除を狙うのは(ほとんどの人にとって)時間とコストの無駄なので、考えないほうが良い
…
この結論を読んで興味を失ってしまった方は、どうぞ引き続きグーグルで科目免除の情報探しを続けてください。読んでいただいてありがとうございました!
それ以外の方、もう少しお付き合い頂けると幸いです。
どういった人が科目免除を狙う意味があるのか、そして多くの人が効率的に公認会計士試験に合格するための取組み方を書いていきたいと思います。
科目免除の全容
ここからが本論ですが、まず試験免除の制度についておさらいしましょう。
実際、公認会計士試験ではどんな科目免除のパターンがあるのでしょうか。
公認会計士試験には短答式試験と論文式試験の2つがあり、それぞれで免除のルールが異なりますので、2つに分けて見ていきましょう。
まずは短答式試験から
免除を受けられる人 | 免除される科目 |
税理士となる資格を有するもの | 財務会計論 |
税理士試験の簿記論及び財務諸表論の合格者及び免除者 |
財務会計論 |
大会社・国・地方公共団体等で会計または監査に関する事務または業務等に従事した期間が通算で7年以上の者 |
財務会計論 |
会計専門職大学院において、
により、上記①に規定する科目を10単位以上、②及び③に規定する科目をそれぞれ6単位以上履修し、かつ上記①から③の各号に規定する科目を合計で28単位以上履修した上で修士(専門職)の学位を授与された者 |
財務会計論
管理会計論 監査論 |
司法試験合格者 | 短答式試験免除 |
「商学に属する科目」または「法律学に属する科目」の研究により博士の学位を授与された者 |
短答式試験免除 |
※ 前年、前々年の短答式試験合格者は当年の短答式試験を免除されますが、それは「短答式試験に合格した人」であり記事の趣旨から外れるので、この表には含めません。
続いて論文式試験です
免除を受けられる人 | 免除科目 |
税理士となる資格を有するもの | 租税法 |
不動産鑑定士試験合格者 |
選択科目(経済学または民法) |
司法試験合格者 | 企業法および選択科目(民法) |
「商学に属する科目」の研究により博士の学位を授与された者 |
会計学および選択科目(経営学) |
「法律に属する科目」の研究により博士の学位を授与された者 |
企業法および選択科目(民法) |
前年、前々年の公認会計士論文式試験において、公認会計士・監査審査会が相当と認められる成績を得た科目のある者(科目合格者) |
該当する科目 |
どうでしょうか。
こうやって表にしてみると結構たくさん免除されるケースがあるんだなーという印象ですね。
では、具体的にどんな人が免除ルールを利用できるでしょうか。見ていきましょう
科目免除のシナリオ
1.税理士試験の簿記論及び財務諸表論合格者
短答式試験の免除科目 | 論文式試験の免除科目 |
財務会計論 | 無し |
短答式試験の総点数500点の内、最も得点配分の高い財務会計論(200点)が免除されます。
公認会計士試験は短答式試験の方が論文式試験に比べて圧倒的に合格が難しいですので、これは大きなメリットですね。
また、数ある免除ルールの中で最もハードルが低いと思われるのがこの税理士試験の簿記論及び財務諸表論合格者になることです。
2.税理士または税理士有資格者
短答式試験の免除科目 | 論文式試験の免除科目 |
財務会計論 | 租税法 |
短答式では得点配分の高い財務会計論、論文式では多くの受験生が初めて勉強する租税法が免除になります。
税理士は会計・税務のプロフェッショナルですので、これくらいの免除は当然ともいえます。
3.会計専門職大学院修了者
短答式試験の免除科目 | 論文式試験の免除科目 |
財務会計論、管理会計論、監査論 | 無し |
会計専門職大学院は2005年にスタートした比較的新しいタイプの大学院です。法曹に対する法科大学院と似たような位置づけであり、通常はカリキュラムを全て修了することで短答式試験を3科目も免除されます。
つまり、短答式では会社法の勉強に専念できます。
一方、論文式試験での科目免除は無く、メリットがあるのは短答式試験のみ、となります。
4.最強エリート:司法試験合格者と商学・法律学博士
科目免除界(?)の最強エリートとも言えるのが、司法試験合格者と、商学博士・法律学博士の学位保有者です。
ここまで来ると、もはや試験サイドが頭を垂れている様子が目に浮かびますW
短答式試験の免除科目 | 論文式試験の免除科目 |
短答式試験免除 | 企業法および民法(司法試験合格者・法律学博士)
または 会計学および経営学(商学博士) |
最早短答式試験の勉強をする必要は無く、論文式試験に関しても全5科目の内の2科目を免除され、3科目勉強すれば良いだけです。
これから長い長い受験の階段を登っていこうとしている下々の者にとっては羨ましい限りですね。。。
他にも不動産鑑定士試験合格者の論文式試験での選択科目免除のパターンもありますが、このくらいにしておきましょう。
大事なのは「で、科目免除って狙う価値有るの?」ってことですよね。
科目免除ゲットまでの遠すぎる道のり
もうお分かりだと思いますが、科目免除を受けられるのは、公認会計士試験のハードルを超える代わりに、別の高いハードルを超えてきた人達だけです。
ここで「ハードル」というのは2種類あります。それは、
- 勉強ハードル = 公認会計士試験以外の何らかの勉強をする労力と時間
- 金銭ハードル = 学校などに通うための学費
例えば「2.税理士となる資格を有する者」について考えてみましょう。
「税理士となる資格を有する者」になるためには、税理士試験5科目を合格しなければなりません。
さらに、実は、税理士試験には受験資格があるので誰でも受けられるわけではありません。
税理士試験の受験資格はこんな感じです。どれか一つでも当てはまっていれば受験資格があります。
- 大学・短大・高等専門学校を卒業し、法律学または経済学を1科目以上履修した人
- 大学3年次以上で、法律学または経済学を1科目以上含む62単位以上取得した人
- 司法試験合格者
- 公認会計士試験の短答式試験に合格した人
- 日商簿記検定1級または全経簿記検定上級に合格した人
- 税務官公署の事務またはその他官公署の国税・地方税事務に2年以上従事した人
- 法人または個人の会計事務に2年以上従事した人
- 銀行・信託会社・保険会社などで、資金の貸付・運用事務に2年以上従事した人
- 税理士・弁護士・公認会計士などの補助事務に2年以上従事した人
大学に通って法律や経済の授業の単位を取っていたり、あるいは日商簿記1級というかなり難しめの資格試験に合格していたりする必要があります。
こういった学業や資格要件を満たしていない場合は、実際に会計事務や税務関係の役所の仕事を2年以上経験していたりといった、実務経験が求められます。
例えば、日商簿記1級合格 → 税理士試験5科目合格 → 公認会計士試験の免除ゲットして合格、というルートを考えた場合、超えるべきハードルは以下のようなものです。
開始レベル | 勉強ハードル | 金銭ハードル | |
日商簿記1級合格
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初学者(簿記3級の学習から) |
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日商簿記2級合格者 |
|
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税理士試験5科目合格 | 日商簿記1級合格者(税法初学者) |
|
|
どうでしょうか。
簿記の勉強開始から最短で進んだとしても、税理士試験5科目合格まで4.5年かかりますが、現実にはそんなに税理士試験は甘くないので、もっと時間がかかる(5年以上)と考えたほうが良いでしょう。
5年以上の期間+学費100万円以上をかけて得られる科目免除が、短答の財務会計論と論文の租税法だけって、コスパ悪すぎますね。
公認会計士試験受験生が最も目指しがちな科目免除ルート第1位!
はい。上の例は非現実的だっていうのは良くわかってます。
なんて誰も思わないですよね?もし近くにこんな事言ってる人がいたら「税理士試験受かるつもりだったら、税理士として働けばええやん?」と諭してあげたほうがいいです。
でも、税理士ルートほどでない、お手軽に見えるルートが一つあります。
税理士試験の簿記論及び財務諸表論合格者からの短答財務会計免除
それは、税理士試験の簿記論及び財務諸表論合格者です。
税理士試験の内、簿記と財表だけ合格すれば良く、時間もコストもそれほどかからずに短答式試験の財務会計論の免除が得られます。
初学者 → 税理士試験の簿記論及び財務諸表論合格者の科目免除までのハードル
開始レベル | 勉強ハードル | 金銭ハードル | |
日商簿記1級合格
|
初学者(簿記3級の学習から) |
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税理士試験簿財合格 | 日商簿記1級合格者 |
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初学者なら科目免除ゲットまで最短で2年弱といったところでしょうか。もし、簿記2級をすでに持っているなら、1.5年くらいでも実現できそうです。
コストとしても予備校をフルに使った場合で、最大60万円程度です。だいぶ現実的ですね。
いいですね。これならなんとかなりそうだ!
。。。
と、思ったあなたはこの記事を読んで本当に良かったですね。
正直言ってこのルートを目指すのも、時間と金の無駄でしかありませんので、私はオススメしません。
理由は以下のとおりです。
簿財と公認会計士の財務会計論は出題範囲の重点は異なる
税理士の仕事の一つは法人税務ですが、法人税務はすべて「個別財務諸表」の世界で完結します。
いわゆる財務会計上の「連結会計」の知識は実務ではほとんど求められません。
で、税理士試験もこういった税理士業務の特性を踏まえてか、簿財では連結や企業結合・事業分離といった論点に重点は置かれていません。(2018年度の試験で連結の分野が出題されたそうですが、あくまで試験の一部で出題された程度です。)
一方で、公認会計士試験の財務会計論の主題は連結会計です。
これは短答式試験、論文式試験どちらにも言えることで、特に計算問題では連結会計や企業結合・事業分離が分かっていなければ絶対に合格点を獲得できません。
なので、税理士試験の簿財の受験勉強と、公認会計士試験の財務会計論の受験勉強ではウェイトの置き方が全く変わってきます。
そして、簿財合格して短答式の財務会計をスキップしたところで、結局、論文式試験合格にむけて連結会計はしっかり勉強する必要があるのです。
だったら、最初っから連結会計をコツコツ勉強継続していった方が効率良くないですか?
税理士の簿財の勉強は不要どころか悪影響
ちなみに筆者の場合は簿記2級合格レベルから開始して2年で短答式試験に合格しました。しかも社会人として週5日働きながらです。
先程「簿記2級を持っているなら簿財合格は1.5年位で達成できそう」と書きましたが、税理士の簿財合格に1.5年も掛けている間に、短答式試験全4科目を合格できるレベルになることは普通に可能です。
そして、最初から短答式試験の勉強を積み上げていけば、短答合格後、論文式試験のためにわざわざ連結会計の計算問題を1から勉強し直すこと無く、理論問題中心の勉強に移行することができます。
なので、結論としては税理士の簿財なんかには目もくれず、ひたすら公認会計士試験の勉強をするのが一番効率良い、ということです。
仮に短答式試験に落ち続けたとしても、簿財の誘惑に惑わされてはいけません。
連結会計の無い会計の勉強をすることになると、論文式試験合格までに必要な知識や計算力を衰えさせてしまう可能性すらあります。
もし簿財の試験を受けるのだとしても、一切簿財専用の準備をしないで試験に臨み、受かればラッキー、くらいのスタンスであるべきです。
会計専門職大学院修了者
これも税理士試験の簿記論及び財務諸表論合格者と同じ理屈なんですが、会計専門職大学院に行く手間とコストも無駄です。
確かに会計専門職大学院の修了者は短答で3科目もの免除が得られるため、短答式試験合格の難易度が高い公認会計士試験においては、勝ったも同然の戦いに持ち込むことができる強力なステータスです。
ですが、修了までに確実に2年の歳月が流れます。そして、結構な学費を払うことになります。
開始レベル | 勉強ハードル | 金銭ハードル | |
会計専門職大学院修了
|
大学院入試合格レベル(簿記2級以上は必要) |
|
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これだけ時間とコストかけて、短答式試験3科目免除しかもらえないのです。だったら最初っから受験予備校の講座と自習室に通い詰めたほうが安くて早くないですか?
もちろん、会計専門職大学院の目的は、公認会計士に限らず広い意味での「会計プロフェッショナル」を育成することですし、その目的に適ったカリキュラムがしっかりと提供されていると思います。
試験に関係なく純粋に会計学を勉強し、学んだことを自分の仕事に還元したいという思いを持って大学院に通っている人にとやかく言うつもりはございません。
しかし、私が申し上げたいのは「公認会計士試験をラクにパスしようという目的で会計専門職大学院を受けようと考えているのなら、そりゃ時間と金の無駄かもよ」ということです。
2年あれば十分に短答式試験に合格できるので、やはり会計専門職大学院も試験科目免除ルートとしてはコスパが悪すぎると言わざるを得ません。
よく考えてから進学しましょう。
科目免除を得る意味があるのはこんな人達
辛い受験勉強を避けて楽に公認会計士試験に合格する方法を求めて情報を探している方々には、こんな記事を書いて本当に申し訳ないです。
しかし、楽に合格する方法なんて存在しないので、情報探しは諦めて勉強に戻りましょう。
でも、中には本当にまれに、科目免除の意味がある人達もいます。
それは、会計・監査領域にキャリアを広げる目的で公認会計士試験を受ける専門家、です。
例えば、弁護士が会計・監査領域での活躍(監査法人の顧問弁護士とか、M&A専門の弁護士だけどBSPLも読める・作れる弁護士になる、とかでしょうか)を目指す場合に、公認会計士という”ハク”が付いているとそれだけで周囲の見る目も変わりますよね。
税理士でも、税務中心の業務から離脱して会計監査も手掛けたいとか、公認会計士から下に見られるのが嫌とか、そういった理由で受験する場合もあるでしょう。
いずれにしても、すでに専門家として活躍している人が公認会計士資格に興味を持った場合に、科目免除制度は有利に働いてくれる、ということです。
この場合には時間もコストも、一切の無駄なく科目免除のメリットだけを享受することができます。
実際に、私と同じ年に論文式試験に合格した人で、すでに税理士資格を持っていた人がいました。
この人は、税務だけでやっていくことに不安を覚え、公認会計士試験を受けようと思ったのだとか。
決して、公認会計士試験に楽に受かりたい → 科目免除の要件をゲットしに行く、という順序で考えてはいけないのです。
また、中にはこんな面白い科目免除ルートを提唱している方もいます。
クマガワさんもACCA(英国勅許公認会計士=イギリスの公認会計士資格)を取って、英国ベースの会計専門家として活躍することが大前提であり、日本の公認会計士資格は”ついでに”取ってみてはどうか、というスタンスだと思います。
クマガワさん提案ルートは修士号が無いために博士課程進学の資格が無い人を対象にしていますが、そもそも、経営学、法律学、会計学で博士号取るってのは、アカデミアに入って学術研究をガチでやろうという意思のある人でなければ出来ないことであり、公認会計士試験合格よりも遥かにハードルが高いことです。
なんせ、新しい理論構築なり実証研究なり政策提言なり、何かしらの新規性がある事柄を追求しなければ研究としては認められないですから、勉強範囲が予め与えられている試験の方がよほど楽だと思います。
結局、真正面から地道に勉強していく以外に短答式試験・論文式試験を突破する方法はありません。
逆に、真正面から、かつ効率的に取り組めば社会人でも合格できることは私の経験から実証済みです。
そのへんの概要をまとめた記事はこちらですので、興味があれば御覧ください。
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社会人が公認会計士試験に合格した方法まとめ
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まとめ
- 公認会計士試験には様々な科目免除パターンが有る
- しかしながら、ほとんどの受験生にとっては、科目免除をゲットしにいく意味がないので、普通に勉強するのが一番効率的
- 科目免除の意味があるのは、会計監査領域にキャリアを広げたい別領域の専門家が受験する場合に限る
以上です。この記事が少しでもお役に立てば幸いです。